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自然に身を委ね、等身大の自分に出会う旅。神の島「浜比嘉島」へ。

2017.04.28 Discover Nippon セソコマサユキ & 新里南

沖縄本島と平安座島をつなぐ「海中道路」を通り、続く全長1,430メートルの橋を渡るあいだ、車窓を染める藍色に思わず息を呑んだ。青に濃い緑が入り混じったような、このエリア独特の海の色合いに包まれると、沖縄に暮らす私でさえ、どこか違う場所に迷いこんだような不思議な胸の高鳴りを感じる。

橋を渡りきるとそこには「浜」と「比嘉」を差し示す看板が立っている。このふたつの集落からなる「浜比嘉島」は人口500人あまりのちいさな島。いまでこそ橋で渡れるようになっているけれど、ほんの20年ほど前までは船でしか渡ることのできなかった。だからこの島には、いまでも素朴な風景が残っているのだ。ちいさな漁船がいくつも並んだ港に、地元の人々が憩う食堂。自然のままのビーチと家々を彩るように咲き誇る花。那覇から1時間ほど車を走らせるだけで、そこはまったく別の場所。ちょっとした小旅行気分を味わうことができる。集落の中にはひっそりと古民家のカフェや宿、アクセサリーショップなどもあり、訪れる観光客も増えている。

この島が人々を惹きつけるのは、それだけが理由ではない、琉球開闢(かいびゃく)の神話によれば、この島には琉球を創ったアマミキヨ(沖縄の方言でアマミチュー)とシネリキヨ(同じく方言でシルミチュー)というふたりの男女神が住んでいたとされていて、“神の島”とも呼ばれているのだ。聞けば、そのふたりの神が祀られているという「アマミチューの墓」と、住処としていた洞穴「シルミチュー」を巡ると、子宝や良縁に恵まれるのだとか…。そのご利益と、沖縄のルーツを辿ってみたいという冒険心が沸き起こり、私も浜比嘉島を訪れてみることにしたのだ。

まずは浜集落にある「地頭代火の神(ジトゥデーヒヌカン)」へご挨拶。公民館の敷地内にあるこの拝所は、きれいに手入れされた色鮮やかな花々に囲まれていて、その様子からも、島の人たちに大事にされているのが伝わって来る。古くから島の人々は旅立ちの際にこの場所にお祈りしているそう。また、立身出世、進学の神様としても有名なのだとか。

「はじめまして。那覇から遊びにきました。今日はよろしくお願いします」。名を名乗り、挨拶を心の中でそっとつぶやいてから、旅をスタートさせる。次に向かったのは、伝説のアマミキヨとシネリキヨが眠る「アマミチューの墓」。そこは、海の上にポツンと佇むゴツゴツした岩なのに、生い茂る緑が生気を感じさせる不思議な場所。

潮が満ちたら消えてしまいそうなほどに心もとない、波打つたびに濡れる足場を辿っていくと階段があり、そのうえに拝所がある。島のおばぁたちが慣れた足取りで拝みにやってくるというのに、30代の私の足はいびつな段差に少しフラついてしまう…。登りきって、手を合わせたあとに振り返ってみると、そこに広がっていたのは浜比嘉大橋を望むうつくしい景色。ここに眠る伝説の神々も、このうつくしい眺望を眺めているのだろうかとしばらく思いを馳せながら、その景色を楽しんだ。

高い階段をのぼったこともあり、少しお腹が空いてきたのでランチで休憩しよう。アマミチューの墓から徒歩8分ほどの場所にある「サントリーニ」は、海を望むテラス席でのんびり過ごすことができるダイニングカフェ。平安座島や宮城島を望む浜比嘉ブルーがうつくしく、この景色に魅せられて店をオープンしたというオーナーシェフも、未だこの景色には鳥肌がたつ日があるほどだという。

この日のランチメニューは、鮮やかな野菜たちが彩る県産豚肩ロースのステーキがメイン。スープとご飯がセットになっていてボリュームも満点だ。お肉の上で光る結晶は、浜比嘉島の海から生まれた「浜比嘉塩」。塩を焚き上げた際、最初に結晶化する部分だけをすくった大粒の塩はミネラルが豊富で、口当たりもまろやか。丁寧につくられた肉料理の味をより引き立ててくれた。

お腹が満たされたところで、いよいよアマミキヨら男女神が居住していたとされる「シルミチュー」へ向かう。海を見渡すアマミチューの墓とは違って、こちらは森に囲まれた丘の上。鳥居の先にある108の階段には、流れる雲の動きによって表情を変える木漏れ日が揺れ、行く先を指し示すかのよう。

目を閉じると、会話をしているかのように飛び交う鳥のさえずり、ざわざわと風に揺れる葉擦れの音。ひんやりした空気のなかに自然の音だけが響き、階段で乱れた息も少しずつ落ち着いてくる。

歓迎のしるしなのか、沖縄では天からの使者と言い伝えられている蝶が、ひらひらと舞うように飛んでいた。ようやく108段目の階段をのぼったところで、子宝に恵まれるという霊石がある。自然の光と音に包まれながらその霊石の前に立っていると、体の内側にエネルギーが満ちてくるような、そんな不思議な感覚があった。

神秘的なエネルギーを感じた後は、海に囲まれた集落を少しお散歩してみよう。港風景が馴染むこの島は、実は県内でも有数のモズクの産地なのだ。比嘉集落には漁港があり、そこではウミンチュ(漁師)のほとんどがモズク漁を行っている。ちょうど5月はモズクの収穫シーズン。漁港はウミンチュたちの熱気に包まれる。

そんな漁港の目の前に店を構えるのが「丸吉食品」。ここは島でとれた魚やモズク料理が味わえる、地元の人はもちろん、観光客にも人気の食堂だ。なかでもおばちゃんが揚げてくれるアツアツのモズク天ぷらは大人気。

揚げてもらったモズク天ぷらを少しだけ持って「ムルク浜」へ行ってみる。ビーチに腰を下ろして、さっそく頬張る。できたての状態でいただくモズク天ぷらはサクサク、さらに口にするとそれがモチモチとした食感に変化する。程よい塩気がきいたモズクには、浜比嘉島の海の恵みがたっぷり凝縮されているようだった。

ぼんやりと波の音に耳を傾けていたら、いつのまにかずいぶん時が経っていた。神の島と言われるこの島には、たしかに古くから大切にされた文化が息づいている。このちいさな島の人々は、それを敬い、自然がもたらす恩恵をたっぷり受けながら暮らしている。旅を通してゆったりと流れるこの島のリズムに身を委ねていると、等身大の自分を肯定してもらえたような、不思議な安堵感に心が満された。それが神さまの仕業なのか私にはわからないけれど、清々しい気持ちでこの島を後にした。

編集・写真/セソコマサユキ
沖縄在住の編集者・ライター。雑誌「カメラ日和」「自休自足」副編集長を経て、手紙社で紙媒体の編集、イベントの企画・運営などを手がけたのち、2012年、独立を機に沖縄に移住。さまざまな媒体での編集、ライティング、撮影を通して独自の目線で沖縄の魅力を発信している。観光情報サイト「沖縄CLIP」編集長。著書に『あたらしい沖縄旅行』『あたらしい離島旅行』(WAVE出版刊)、「あたらしい移住のカタチ」(マイナビ出版)、企画・制作に「みんなの沖縄」(主婦の友社)がある。http://masayukisesoko.com
photo by G-KEN

文/新里南 しんざと みなみ
ライター。1986年東京生まれ、沖縄育ち。東京で10年ほどWEB制作のディレクターを経験したのち、2016年5月より故郷・沖縄へUターン。現在、沖縄観光メディアのディレクターをつとめつつ、ライターとしても活動中。多くの人にとっては海を隔てた遠い場所かもしれない沖縄を少しでも身近に感じてもらえるよう、自由な視点でいまの沖縄を発信していきたいと思っている。2016年12月発売の「みんなの沖縄」(主婦の友社)では編集アシスタントを担当。

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