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目に見えないうつくしさで魅せる、メイクアップアーティスト 守本理恵さん。

2017.03.22 Discover Nippon セソコマサユキ & 新里南

守本理恵(もりもと・りえ)さんの朝は、緑豊かな畑からはじまる。むき出しの木の棒に無造作に挿してある長靴を手にとると、慣れた足取りで颯爽と畑の中へとはいっていく。

守本さんは、ニューヨーク、パリ、東京など、ファッションの流行を生み出す華やかな場所で、コレクションやモード雑誌を飾る、名だたる著名人・モデルのメイクを手がけてきたメイクアップアーティストだ。そんな彼女が約5年前、震災を機に沖縄へ移住した。豊かな自然、緑と海に囲まれた南城市(なんじょうし)は、沖縄の中でも田舎といえるような場所。ここでの暮らしは、移住前の華々しい世界とはまったく異なるところにある。

「東京に未練がないわけではなかったけれど、いまはそれ以上に沖縄が楽しくなっちゃった」と無邪気に笑う表情は、自然体でとてもやわらか。それでいて芯の強さと、湧き出るようなエネルギーを感じさせる。流行とともに、自分なりのメイクを“つくる”仕事をしている彼女は、もともとものづくりが大好き。食事も素材からつくりたいという想いで、沖縄に来てから畑をはじめたのだそうだ。農薬などは使わず、自然に近い状態でハーブや野菜を育てている。朝収穫したレモングラスやフェンネル、ヨモギ、センダンなどのハーブを持ってキッチンにたつと、慣れた手つきでやかんに入れて火をかける。沸騰したら弱火にして1分、その後5分ほど蒸らす。「生だから煮立たせないのがポイント」と、日課だというハーブティーを作ってくれた。それは畑で感じた風のようにさわやかで、不思議なほど苦味のない、体に自然のエネルギーが染み渡るような一杯だった。

普段のスキンケアでもその「ものづくりが好き」という性格が発揮されている。ハイビスカスやアロエ、ゴーヤー、月桃など沖縄の素材を使って、スクラブ洗顔料や化粧水、シャンプーなどを手づくりしているというのだ。それは、移住前は考えもしなかったことだけど、美容効果の高い素材が身近なところで簡単に手に入るからこそ。この日つくってくれたのはシャンプーにも使えるハイビスカスのスクラブ洗顔。ハイビスカスとバラに米ぬかを入れてミキサーで混ぜ、最後にフェンネルとシークァーサーのエッセンシャルオイルを入れたら自然素材だけのスクラブ洗顔が完成。試しに手に擦り込んでみると、驚くほどしっとりと滑らかになった。

「夏に枇杷の葉の化粧水をつくったら、息子の幼稚園のお母さんに大人気で。今年の夏はそれで乗り越えられたって言ってもらてうれしかったんです」。守本さんの手づくりコスメはそうやって評判になり、ついにはオリジナルの化粧品ブランド「NATURE PLANTS SKIN CARE」を立ち上げるまでに。いまではメイクの仕事の他に、化粧品の製造から瓶詰め、包装、発送までを手がける忙しい日々を送っている。

それでも、ちゃんと仕事と子育てと両立できているのは、近所の人の支えがあるから。「(ご近所さんとは)子どもをちょっと見てて〜とか、気軽に言いあえる家族のようなコミュニティができています。沖縄だとひとに気を使いすぎなくて良い気楽さがありますね」。

いつも子どもを遊ばせているという古堅(ふるげん)集落は昔ながらのおだやかな集落。仲良しで歌手のハルコニーさん、雑貨屋を営むエマさん、料理家のユウコさんが暮らしていて、日頃から子どもたちを遊ばせながら、大人たちはゆんたく(おしゃべり)を楽しんでいるそうだ。子育てで助け合うだけでなく、畑もシェアしているという彼女たちとは価値観が似ているから話も尽きない。ハルコニーさんは息子の勝倶くんのウクレレの先生でもある。

しかし、移住してきたころは友だちもいない、ゼロからのスタートだったと振りかえる。「最初は近所の人に『メイクをおしえて』と言われたのがきっかけ。そのあと、うちでもやってほしいとか、カフェで講座をひらいてほしいという声をいろんなところでもらって。メイクレッスンを通して、お友だちが増えました」。

いまも週に数回、午後の時間をレッスンにあてているという。東京にいた頃は、モデル以外のメイクはしたことがなかったという守本さんだが、沖縄にきてひとそれぞれの顔にあったメイクを引き出す“喜び”を感じているそうだ。

「ビューラーでまつ毛をあげただけで喜んでくれたり、レッスンが終わった後、はじめて見る自分の顔に驚いてくれたり。そういう反応は嬉しいなって思いますよね」。レッスンに訪れるのは、いままでメイクをしたことがない方から、もっと自分らしいフレッシュなメイクをしたい方、さらにプロフェッショナルなメイクスキルを学びたいという美容師さんまでさまざま。レッスンはグループで行うけれど、その人ひとりひとりとしっかり向き合って、カウンセリングしながらメイクを仕上げていくから、生徒さんの満足度も高く月一、週一と通い続ける人は多いという。

そんなメイクのプロである守本さんだが、なぜだか本人はほとんど化粧をせず、いつも素顔のまま。「私はあくまでもメイクをつくる側で、主役はモデル(メイクをする人)。だから自分はいつもニュートラルでいたいんです」。

沖縄で暮らすようになって、“美”に対する価値観が変わった。「東京では、いかに煌びやかに見せるかとか、目に見えるうつくしさに心が向いました。沖縄の人は、人のために何かをしたり、聞いてあげたりする心の余裕がある。そんな環境で暮らしていたら、人とのつながりや周りの自然、ゆっくり流れる時間だったり、自然と見えないところにもうつくしさを感じるようになりました」。

いつだって自然体で飾らない守本さん。けれどどんなときもキラキラと輝いて見えたのは、きっと豊かな自然とおおらかな人に囲まれて自分らしくのびのびと暮らしているから。その明るい表情が、彼女が沖縄で手に入れた「美」の尊さを物語っているように思えた。

<問い合わせ>
守本理恵(Rie Morimoto)
電話/080-5056-3006
URL/
http://www.makeup-okinawa.com
http://www.natureplantsskincare.com

編集・写真/セソコマサユキ
沖縄在住の編集者・ライター。雑誌「カメラ日和」「自休自足」副編集長を経て、手紙社で紙媒体の編集、イベントの企画・運営などを手がけたのち、2012年、独立を機に沖縄に移住。さまざまな媒体での編集、ライティング、撮影を通して独自の目線で沖縄の魅力を発信している。観光情報サイト「沖縄CLIP」編集長。著書に『あたらしい沖縄旅行』『あたらしい離島旅行』(WAVE出版刊)、「あたらしい移住のカタチ」(マイナビ出版)、企画・制作に「みんなの沖縄」(主婦の友社)がある。http://masayukisesoko.com
photo by G-KEN

文/新里南 しんざと みなみ
ライター。1986年東京生まれ、沖縄育ち。東京で10年ほどWEB制作のディレクターを経験したのち、2016年5月より故郷・沖縄へUターン。現在、沖縄観光メディアのディレクターをつとめつつ、ライターとしても活動中。多くの人にとっては海を隔てた遠い場所かもしれない沖縄を少しでも身近に感じてもらえるよう、自由な視点でいまの沖縄を発信していきたいと思っている。2016年12月発売の「みんなの沖縄」(主婦の友社)では編集アシスタントを担当。

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